気が付くと、目の前に山があった。
男はとりあえず登ってみることにした。
途中、おいしい木の実を見つけ、男はその実を幾つか鞄に詰めて、さらに山を登った。
しばらく行くと、今度は碧色のきれいな石を見つけて、幾つか鞄にしまって、また山を登った。


やがて疲れて足が棒のようになった頃、見晴らしの良い、開けた場所に出た。
そこから見える景色はなかなかのもので、男はがんばった甲斐があったと思った。
腰を下ろして持ってきた木の実を食べると、また格別にうまかった。


しばらくそうしてくつろいでいると、男は、この山にはさらに上へ登る道があることに気が付いた。
山の頂上のほうを見上げると、雲に霞んでよく見えなかった。
すると突然、白い髭を蓄えたじいさんが現れ、男に言った。
「ここから先へ登るは並大抵のものでは行かれん。
 鉄のような肉体と精神を持ったものでも、限られた極一部のものしか頂上にたどり着くことはできんじゃろう。
 この先はとても寒いし食べるものも無い。
 ここの景色も悪くなかろう。
 無理して登ることもあるまい。」
男はしばらく悩んだ後、やっぱり山を登ることにした。
男は今居た景色に別れを告げて、また山を登り始めた。


そこの寒さは予想以上で、瞬く間に男の体力を奪った。
男は少しでも荷物を軽くしようと、持っていた石を捨てた。
道に転がる人骨を尻目に、さらに山を登りつづけた。
それでも頂上は遥かに遠く、やがて持っていた木の実を全て食べ尽くした。
それでも男は山に登りつづけたが、吹きつける冷たい風と空腹で次第に体は弱り、とうとう男は力尽き、道に倒れ込んだ。
山の上のほうを見ると、頂上はまだ遠く、遥か先に霞んで見えなかった。
男は目を瞑って、今までのことを思い返した。
そして、微かに口元を緩ませて死んだ。