向上心とは流浪の心と見つけたり

 自分はオタクじゃないが、これだけは言わせてくれ。人が成長していくための心得は、流浪の旅人の心境だと思う。
 人が成長するということは、まわりの環境から新しい経験を受けとる、ということだと思う。しかし、人には経験を受け入れられるキャパシティがあって、限界を超えて経験を受けつづけることはできない。だから、人はものを忘れるのだと思う。忘れた分だけ、また新しい経験を受けとることができるようになる。
 流浪する旅人は、いろいろな場所に行って、様々なものを見聞する。どこかに定住したりしないから、旅人の持ち物は常に必要最小限の物しか持たない。逆に言えば、身が軽いのでどこにでも自由に行ける。
 私は、守るもの、抱えるものが多すぎた。プライド、過去の栄光はもちろん、マンガやラジオの録音などの些細なものでさえ、少しでも幸せを感じたものを捨てることができなかった。言わば、私は、森の奥に建つ家にひっそりと暮らしている、世界と隔絶された人だ。
 向上心を忘れた人間は堕ちていくだけだという。だから荷物をまとめて、旅に出ようと思う。